第76話

「そんなこと…」


「俺、お前を1人にした事ずっと気にしてた。

俺を追ってこっち来たらどう怒ってやろうとか…。

でも、安心した。凪咲はちゃんと前に進んでいたから」


「光輝…」


自分の手で涙を拭って光輝に抱きつく。

ふわっと香るのはいつものタバコの匂い、懐かしい匂い。


「ごめんね。あの日、間に合わなくて…ごめんなさい」


「アホ。んな事いいんだよ」


抱きしめている私の頭を叩かれる。


「凪咲。お前は今幸せか?」


「…うん。幸せだよ」


私がそう答えると光輝は、頷いて微笑む。


「それが聞きたかった。

凪咲、幸せになれよ。お前のウエディング姿楽しみにしてるし、2人のことを見守ってるから」


「うん…ありがとう、光輝」


私は1度目を閉じて開くとそこにはもう光輝の姿はなかった。


最後に会いに来てくれたんだ、私の夢の中で。


もう1度目を閉じて再び開けると目の前には圭さんの顔。圭さんは既に起きていたのか、目を擦りながら欠伸をする。


「凪咲、どうした?泣いたのか」


私の涙を自身の指で拭う。


「あのね、夢で…光輝に会ったの。

私たち2人を見守ってるって言ってくれたの…

最後に夢の中で会いに来てくれたのかもしれない」


「そうだな。ちゃんとお別れ出来たか?」


「うん…あの日、最後に間に合わなかったことも謝れた」


「そっか」


ポンポンと腕枕している手で頭撫でてくれた。

まるで子供をあやす様に。

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