第75話

「うぉ!ここめっちゃ都内のシンボルタワー見えんじゃん」


「うん、景色も良くてここに決めたの」


— — — — —


「景色めっちゃ綺麗!」


「こんなん見ながら酒飲めたら最高だな」


「夜勤とかもあるんだから、程々にしなよ」


「うるせっ」


— — — — —


あの時、私の希望を叶えてここに住むことを決断してくれたんだよね。


ごめんね、光輝。私、この家離れるね…


私はいろいろな感情が溢れ出てきて、景色を見て何も話せずにいた。


「凪咲」


「なーに?」


「寂しいんだろ?ここから離れるの」


図星をつかれて何も返せず、声が出ない。


楽しい思い出も、喧嘩した思い出も、悲しい思い出も全部全部知っているこの家から離れるのはやっぱり寂しい。


「めそめそしてごめんね。もう、大丈夫だから!だって今の私には圭さんがいてくれるから!」


大丈夫…その言葉に嘘はないよ。


その日は布団1枚敷いて、圭さんに守られるような形で抱きしめられて2人で眠りにつく。



「…ぎさ。凪咲」


誰?圭さん?


目をゆっくり開けると真っ白な世界で私以外誰もいない。


「凪咲」


振り返るとそこには、ずっとずっと忘れられなかった人。


「光輝…」


光輝はいつもの自信満々な顔で私を見ながら歩いてくる。


「悪かったな。約束、守れなくて」


「約束?」


「5年記念日の日。行けなくて…お前の傍からいなくなった」


私は首を横に振る。

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