第70話

圭さんは頬杖しながら私を見る。


「一緒に暮らさね?」


「えっ?」


圭さんの言葉を理解するには、ほんの数秒必要だった。


「えっ!?一緒に暮らす??圭さんと!?」


「他に誰がいんだよ」


嬉しい!一緒の時間が増えるのは。


だけど心のどこかで一緒に暮らして、離れる寂しさを知っているからか、怖い気持ちもある。


「圭さん…あの」


圭さんは私の前に立って、目線が合うように腰を下ろす。


「俺は何処にも行かねーよ。

ぜってーに凪咲を置いていったりしないから」


私の不安な心を見透かしたように、欲しい言葉をくれた。


「本当に?もう、1人にしない?」


「こんな泣き虫な奴を1人にできるか」


うっすら瞳に溢れる涙を圭さんは指で拭う。


「どうでしょうか?凪咲さん。

俺と一緒に暮らしませんか?」


「う、うん!一緒に暮らす!!」


「じゃあ物件探すか…それともあの家出たくない?」


「あの家は…」


確かに光輝とのたくさんの思い出がある。だけど…


「あの家は出る!私は前に進むって決めたから」


「よし。じゃあ次の休みにでも物件探すか」


圭さんは立ち上がって、右肩を揉む。


「…圭さん、嬉しいの?」


「あ!?なんで…」


「だって圭さん、嬉しい時とか恥ずかしい時は絶対に右肩揉むんだよ。癖でしょ?」

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