第62話

仕事を定時に終え、支度して急いでエレベーターに乗り込む。


ロビーに着くと、既に柱の所で背中をつけて待っている百瀬さんの姿があった。


「お待た致しました!お疲れ様です、百瀬さん」


「凪咲。俺、昨日何て言ったっけ?」


普段は見せない、裏がありそうな笑顔に1歩引く。


「…圭さん」


「よし。じゃあ帰んぞ」


圭さんはポケットに手を入れて出口に向かって歩き始める。


「何処に行くんで…何処に行くの?


…へっ?」


顔に何かが当たり、間抜けな声が出る。


「この間行けなかった映画。明日休みだしレイトショーでもしようかと」


「いいです…いいねー」


「凪咲、こりゃ暫く敬語抜けなさそうだな」


「いきなりずっと敬語無しは無理ですよー」


「まぁいいや。とりあえず映画前に飯食うか。

何が食べたい?」


尋ねられて、今日のお腹の気分を考える。


「焼き鳥…かな」


「焼き鳥か、良いな。行くか」


圭さんに左手を引かれて歩く。


その手の繋ぎ方は俗に言う恋人繋ぎというやつで…ドキドキする。

なんか付き合いたてみたいな…


チラッと圭さんを見ると普通な顔をしているけど、耳まで顔が赤い。


「圭さん、耳まで顔が赤いけど大丈夫?」


「はっ!?バカじゃねーの!赤くねーし」


その言い方だと肯定しているようにしか聞こえないけど、可愛いから良いか。


「凪咲、今失礼なこと考えてるよな?」


「気の所為じゃないですか?」


「ぜってーバカにしてる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る