第53話

長瀬さんは、ジッと俺を見る。


「何その言い方」


「いや、事実だし」


「…過去形なんだね」


「悪い」


「謝んないでよ、私惨めじゃない!」


泣きそうなのか、怒ってるのかどっちだ?忙しい奴だな。


「でもさ、さっき周りの人の声聞こえたけど、百瀬くんとさっきの彼女の元彼氏が似てるって」


「元彼氏じゃねーよ。今もアイツにとっては大切な彼氏だよ」


俺の言葉に目を丸くして、何度と瞬きを繰り返す長瀬さんは、首を傾げる。


「え、意味わからないんだけど」


「良いんだよ。わかんなくて」


「だって、好きな人には1番好きでいてもらいたいものじゃない」


「そういう順位はいらねー。凪咲が俺を少しでも好いてくれてんならそれでいい」


「何それ!本当に納得できない!」


俺は長瀬さんの頭を資料の束で軽く叩く。


「はい、この話は終わり。

じゃあこれにサインよろしくー」


「ちょっ!?す、するわよ!」


長瀬さんは資料を頭から取って、近くの机に広げてサインをする。


「来週からネット購入大丈夫なので、出荷は翌日になるから」


「わかった」


会議室を出て、下まで送ろうとしたら「ここでいい」と長瀬さんに言われてエレベーター前で別れる。

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