第50話

「あの、営業部の百瀬さんは本日いらっしゃいますか?」


「え、百瀬さんですか?私、経理部ですので…すみません」


「そうなんですね」


え、百瀬さんに用事?

いや、仕事のことだよね?だって会社に来るほどだし…


ドクン ドクンと自分の中で嫌な鼓動が鳴る。


会社に着くとこないだと同じように昼ご飯戻りの百瀬さんと藤原さんがエレベーター前に立っていた。


「あ…もも…」


「百瀬くん!」


私の声は彼女によってかき消されてしまった。


「あ!?か…長瀬さん」


「ちょっとこないだみたいに花梨って呼んでよ!」


「何してんの?」


「仕事よ、仕事!

こないだ百瀬くんが持ってきた営業書類に承諾する為に来たの」


「は?担当は別の…」


「変わってもらったの。飲料の新商品開発は私の担当だし、百瀬くんに会いたくて」


顔を赤くして百瀬さんを見る彼女。

鈍い私でも解る、彼女はきっと百瀬さんの事を…。


「矢島さん、大丈夫ですか?」


私の不安な心を見透かした山口さんは心配そうに声をかけてくれる。


「大丈夫、ごめんね。戻ろ」


反対側のエレベーター乗り場に行こうと歩き出す。


「凪咲っ」


百瀬さんが彼女がいる前で私に声かけて、そばに来てくれた。


「お疲れ」


「はい…お疲れ様です」


「どうした?」


下を向く私の顔を下から覗き込む。


「いえ、何でも…」


「何でもなくないだろ?どうした?」

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