第48話

名前を呼ばれただけで、特別に思えてしまう。


「百瀬さん…」


いつも気にかけてくれて、大切にしてくれて、口は悪いけどとても優しい人。


そんな人を好きにならない人はいないよ…


涙を流す私の涙を指で拭う。


「本当に泣き虫だな凪咲は。

何でそんなに泣くの?」


「も、百瀬さんが嬉しいこと言うからです!」


「あ、嬉し泣き?」


「このタイミングで他に泣く理由ありますか!?」


ぷはっと吹き出し笑う百瀬さんは、すぐにポンっと私の頭を撫でる。


「いや、嬉しいよ。泣くほど嬉しいんだろ?」


「~っ。と、とにかくさっきの返事はもう少し待っててください」


「はいはい、いいよ。とりあえず俺にも可能性があるって事は、よーく解ったから」


「いや、あのっ…」


意地悪っぽく笑い、嬉しそうな顔に胸がぎゅっと掴まれた気がした。


「お。雨上がったな」


「百瀬さん、ジャケットありがとうございます…」


「凪咲、見てみ」


百瀬さんと同じようにバス停の外を1歩だけ前に出て、空を見る。


「虹…綺麗!」


人生で数えるぐらいしか見たことの無い大きな虹。


「雨の後の奇跡ですね」


「そうだな」


バスが来るまでの数分間、2人で虹を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る