第42話

会社に戻り、営業部に行くと藤原も上がっていた。


資料を引き出しに片付け鍵をかけてからタイムカードを押して急いで休憩スペースに向かう。


「悪い矢島さん、待たせ…」


「…スー…スー…」


テーブルに腕で顔枕をして小さく寝息を立てて寝ていた。


「……」


俺は矢島さんに近づいて彼女の髪の毛を触る。

気づかない彼女の今度は頬に触れる。


「ん…っ」


彼女はゆっくりと目を開けて、驚いた顔で俺を見る。


「も、百瀬さん!?」


「おはよ」


彼女は頬を触ったり口元を触ったり慌ただしい。


「私、涎ついてますか!?」


「…は?」


「だって頬触ったじゃないですか…!」


「それは…」


口が裂けても、急に触れたくなったとか言えねえ。


「つーか、涎ついてるか普通聞くか?」


「だって気になるじゃないですか」


「俺、異性だってわかってる?

恥ずかしくないの?」


俺の言葉でやっと恥ずかしいと思ったのか、矢島さんの顔はみるみる真っ赤になっていく。


「…恥ずかしいです。もう忘れてください」


矢島さんの頭にポンッと手を置くと下を向いていた彼女がゆっくり顔を上げる。


「飯いこう。腹減った」


「あ…はい!」


「美味そうなお好み焼き屋見つけたからそこでいい?」


「はい!是非そこで…」


「んじゃ行こうぜ」


俺は携帯の地図アプリを開いたまま、矢島さんと会社を出る。


「ってか、何でお好み焼き?好きなの?」


「え?だってソースと鰹節が合わさった感じ美味しくないですか?」


「まぁそれが美味しいけど…」


「私、大好きなんです」


手を合わせて笑う矢島さんが可愛いと、柄にもなく思ってしまった。


「百瀬さん、どうかしましたか?」


「…いや、別に」

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