扉
虹の橋を渡っていた時間は、長いようで短い。
眼下に広がっていた花畑が、もうあんなに遠くなっていた。
そのまま虹の橋の朱色は、空高くまで伸びて雲の中へ入っていく。
銀月宮は、雲の入口まで来ると一度足を止めて、また君を振り返った。
「ここから先は神域だ。何を見ても大声を上げてはいけない」
つまり、神様に会わせてくれる、という事らしい。
君は内心、胸踊りながらも、深く深く頷いた。
「ついて来い」
「レッツゴー!」
「当たって砕けろ!」
両肩の兎たちは元気に片手を上げている。
言葉の意味を分かってて言っているのかは、ちょっと微妙なところだ。
虹の橋から外れて、銀月宮に続き雲の中へ入る。
霧のような薄っすらと白い世界は、少し肌寒さを感じる。
銀月宮の姿を見失わないよう、紫に輝く蔦模様と烏帽子を目印に歩き続けた。
奥へ奥へと進んでいく内に、霧が晴れてだんだんと暖かくなる。
「通ぉりゃんせ」
「通りゃんせー」
「こーこはどーこの」
「細道じゃー」
陽気に歌う兎達の声に呼応して、晴れた空間に大仰な扉が現れる。
金で装飾された扉の飾りは、龍があしらわれており、扉をくぐる者を威嚇するような鋭い目つきを君に向けていた。
扉の一対の龍が、重々しい声で尋ねてくる。
「汝、招かれざる人の子よ。なにゆえ此方まで赴いたのか。申せ」
君は、龍達に射竦められながらも、深々と頭を下げて答える。
名の無い神に会いにきた、妖精銀月宮の許しを得て、妖精の国から虹の橋を渡り、雲間の神の世まで歩いてきた、どうか自分を扉の中へ通してほしい。
自らの口で君から答えを受け取った双龍が、視線を銀月宮に移す。
今度は銀月宮が頭を丁寧に下げて、兎達も君の肩から降りて、龍にお辞儀した。
「この物が申した通りなりて、銀月宮が遣いに参った。此度は狐狗狸に用向きあり。同様に御扉お通し願いたし」
銀月宮に続いて、兎の日卯女と朝兎丸も龍に話しかける。
「私達なんにも悪い事しないの」
「そうそう! 大臣に会いに来たの」
ちびっこ兎達が前足をちょこちょこと動かし、全く臆する事なく双龍に訴えた。
龍は視線を再び君に戻すと。
「通ってよし」
一言だけ言って装飾の一部になり、扉がぱっと開かれる。
銀月宮が頭を上げて、先に扉をくぐった。
兎達もすぐに駆けて行く。
君も軽い足取りで、銀月宮の背中を追った。
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