目的地は向こう
銀月宮の後ろを着いていく。
両肩には兎の、日卯女と朝兎丸。
進むのは昼の空の下、鮮やかな花畑の中を歩いていた。
夜の花畑とは違い、こちら側の花の上には、色とりどりの蝶が優雅に舞っている。
花と蝶の中を無口に歩く銀月宮の白の衣が、穏やかな風に吹かれてまた蔦の模様がチラチラと浮かび上がった。
色の中に立つ銀月宮の白は、周囲の色彩を纏いつつもそこに混ざらず独特の雰囲気を崩さない。
それは神々しさのようなもので、花も蝶も銀月宮を僅かな隙間分避けて、まるで彼を迎え入れているようだ。
昼の花畑はまだまだ続く。
どこまで見渡しても一面花畑と飛び交う蝶に縁取られ、地平線の彼方まで同じ景色が連なっている。
「ゴーゴー!」
「どこまでもどこまでも」
「行こう行こう!」
「遥か彼方へ!」
「今日のおさんぽ」
「目的地は向こう」
「行こう行こう」
「行こう行こう!」
兎達が君の両肩で歌う。
とても楽しげに。
とても和やかに。
君も兎達に合わせて歌う。
とても楽しげに。
とても和やかに。
前を歩く銀月宮は、君達の歌にくすりともしない。
けれども歩く速さは君に合わせて、ゆったりと進んでくれる。
銀月宮は、言葉は少ないし表情もあまり動かない。
だから一見冷たい妖精のように感じるかもしれないが、ちゃんと君を見てるし、ちゃんと君を思ってくれている。
本当は、とても心が温かい妖精。
そして実は、妖精達の中で一番人間くさいところがある。
銀月宮は、妖精の中でも珍しい、人間として生きていた事がある妖精だ。
銀月宮の今の服装は、その頃に身に着けていたものと近いのだ、と銀月宮は君に教えてくれた。
その他にも、銀月宮は色々な事を君に教えてくれた。
この世界には、色んなところに妖精が隠れている事。
妖精たちが話す言葉は、人の話すどの言語とも違う事。
妖精の中には、人の世界に紛れ込み、動物や虫となって人前に姿を見せる者もいる事。
この妖精の国に居る妖精達を、君に紹介してくれたのも銀月宮だ。
神と人との中継ぎの存在が妖精であり、銀月宮は神に仕えて人に神の言葉を伝える役割だった。
だから人の使う言葉をある程度把握しているのだ、と銀月宮は君に言っていた。
「ここを渡る。落ちるなよ」
それまで一言も話さず歩いていた銀月宮が、君の方をわざわざ振り返って注意した。
銀月宮の前にあるのは、空に架かっているはずの虹の橋。
縦に長く伸びた曲線は、勿論手すりなど付いていない。
銀月宮が虹の橋の上に一歩踏み出すと、ただの虹だったはずのそれが、神社にあるような朱色一色の橋になる。
君は銀月宮の後に続いて橋の上を歩いた。
朱色の床は踏みしめた感覚がまるでなく、空中を歩いているかのようにも思える。
一歩一歩、歩くたびに足下から七色の光の粒がはじけた。
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