守りつきとメアリーアン

 君が立っているここは、風も身を休める長閑な花畑。

 輝く太陽が満面の笑みで浮かぶすぐ隣で、青い月が踊るように姿を変える。

 太陽がいる昼の空には、雲ひとつ無い快晴に架かる大きな虹。

 月がいる夜の空では、色とりどりの星が明滅しながら、月に合わせるようにくるくると回っている。

 不思議な不思議なこの場所が、あの妖精の国だ。

「いらっしゃい。今日も遊びに来たんだな」

 若い男の子が話しかけてきた。

 男の子が着ているのは、陰陽師のような白い服。

 月の明かりを受けて、服に刺繍された模様が紫に光る。

 草のつるのような模様は、月が形を変える度、白い服の中を泳ぐように、キラキラと光ってまた消えて光った。

 一見怒っているようにも見える表情は、ただ笑みを見せていないだけで、決して君を拒絶している訳ではない。

 彼の名前は銀月宮。

 呼び方はぎんげつきゅう、だったりぎんのつきみや、だったり。

 その読み方は特に決められていない。

 妖精の国の門番さんだ。

 彼の事を銀月宮と呼んでくれるのは、君の他には数えるほどしかいない。

 というのも、銀月宮は役割で呼ばれる事の方が多いから、名前で呼ぶ事に皆慣れないのだ。

「あら、守りつき。今日もお客さまが来たのね」

 銀月宮をモリツキと呼んだ彼女が、君の顔を見てにっこりと笑う。

 しとやかな彼女は、金の巻き髪をふわふわと靡かせ、しとやかな仕草で片手を頬に添える。

 頭にローリエの冠を戴く彼女は、ほのかに甘い香りを纏っていた。

 フリルにリボンにレースまで飾られた豪華なドレスは、炎のような力強い赤。

 たっぷりと膨らんだスカートが、彼女の身動き一つでゆったりと揺れる。

 ドレスの揺れまでもがしとやかだ。

 彼女の名前はメアリーアン。

 その背中からは天使のような翼が生えているが、彼女も銀月宮と同じく、拳ほどの大きさしかない。

 ここは妖精の国、このくらいのサイズが通常だ。

 メアリーアンは、君の手を取って優しく花畑を進む。

「ちょうど、こっちで宴会をしているのよ」

 柔らかな小さい手に引かれて、昼の空から少し遠退いていく。

 メアリーアンの金の巻き髪が、月の光を吸い込んでぼんやり輝き始めた。

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