開幕

 耳を澄ませてごらん。

 風に混じって、あなたに語りかける声が聞こえる。

 目を凝らしてごらん。

 木の葉の影に隠れるようにして、君をそっと覗き込んでいるのが見える。

 彼らは妖精たち。

 いつも私達のそばにいて、いつでも私達の手助けをしてくれる。


「じゃあ、今日はこのお話にしましょうか」

 上下分かれた浴衣を着た小さな彼女が、大きな大きな本を持って、ゆっくりと飛んでくる。

 浴衣の色は夏の空のように爽やかな青で、可憐な白い苺の花が襟や袂、裾に咲いていた。

 彼女は妖精ベリーベル。

 苺の実と同じ艶を持つ髪は、毛先が内側に優しく丸まった、ボブヘア。

 真っ直ぐな前髪の両端には、浴衣と同じ苺の花の髪飾りが添えられている。

 ぷかぷかと空中に浮かんで、ベルは柔らかく微笑んだ。

 その瞳は温かな薄い赤色。

 ベルが床の上から二十センチほどの高さを浮遊して、一冊の絵本をぶら下げている。

 彼女が両手に持つその絵本の表紙には、色鮮やかな広い花畑と雲ひとつ無い高い空、そして空を真っ二つに分ける美しく立派な虹の橋が描かれていた。

 タイトルは、平仮名で「ようせいのくに」と書いてある。

 ベルから差し出された本に、女の子は嬉しそうに、唇を横に引き延ばした。

 前のめりになって、ベルの前でわくわくしながら待つ。

 女の子の期待に答えるように、ベルは絵本を床にコトンと置き、絵本の端っこを一枚持ち上げて、早速ページをめくった。

「ここは、風さんも静かにお休みする、のんびりしたお花畑の中です」

 ベルは、絵本に書かれた文字を読み聞かせて、女の子の心を弾ませる。

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