第2話


 暁音は沙霧がいなくなると、ふっと肩の力を抜いてリビングを見回した。あてもなくまじまじと全体を見ていた暁音は、ある一点を凝視して表情を固くした。


 ゆっくりと立ち上がるとふらふらと壁に寄っていく。そっと手を伸ばして触れたのは額縁の中に飾られた、御空色の花がトゲのような葉に包まれたドライフラワーの花束。



 目を細めて慈しむようにゆっくりと撫でる背中に、階段を下りてきた沙霧は足を止めた。沙霧は暁音の消えそうな横顔に見惚れ、視線が外せなかった。暁音は不意に振り向くと、沙霧の視線に気がついて手を下ろした。



「すみません、勝手に」


「い、いえ!」



 二人の間に沈黙が流れる。


 沙霧は目を泳がせながら考えて、暁音が見ていたドライフラワーに目を留めた。



「私はお花には詳しくないですが、このお花、とても綺麗ですよね」



 沙霧が暁音の隣に足を進めながら零した軽やかに弾む声。暁音は沙霧の視線を追ってドライフラワーを見ると、視線を落として奥歯をかみ締めた。



「私はこの花が嫌いです」



 暁音の苦々しい言葉から流れた微妙な空気に、二人はしばらく並んだままお互い黙り込んでいたが、暁音はパッと視線を逸らしてソファに浅く腰掛けた。



「すみません、プランの話でしたね」



 沙霧は少し驚いた様子を見せたが、すぐに自分もソファに座った。二人は頭を突き合わせて二時間じっくりとプランについて話し合った。


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