13-7

駅に着いて、ロッカーからキャリーバッグを出した。


行ったことのない土地までの切符を、初めて買った。

切り刻んでぐるぐるに包んだカードを、駅のゴミ箱に捨てた。


ホームまでの階段を、キャリーバッグを抱えて必死で上る。



ホームの椅子に座り、バッグから封筒を出した。

貯金のうちの半分弱。

当面はこれでどうにかしなければならない。


寮がある仕事を探さなきゃ、家もない。



残りのお金は、出て来た家に置いて来た。


叔母の借金の書類達をまとめて、それと一緒に叔父のジャケットの内ポケットに入れて来た。

少ないけど、2件くらいはどうにかなるだろう。



私と叔母のどっちが嘘をついていたかなんて、こうなってしまったらもうどうでもいいことかもしれない。


だけどもし何かあった時。

叔母の書類と私の借金の書類の日付を照らし合わせれば、どっちが先に借金したかくらいはすぐに分かる。


叔母は信用出来ないから、なるべくなら叔父に保管していて欲しかった。



お金を置いて来たのは当然、返済の足しにしてもらうため。

でもそれは思いやりとか情とか、そんな気持ちからではなかった。


ここまで育てて頂いてありがとうございました。

そんな感謝の気持ちや、お礼のしるしでもない。

ましてや、私にかかったお金を少しでも返そうとか、そんな心からでもない。



お金を置いて出て行ったことで、少しでも後悔させたかった。

私の存在を、最後に印象づけたかったのかもしれない。


そして、少しでも胸を痛めて反省すればいい。

そんな、復讐にも似た気持ちだった。


あの人でなしが、これくらいで反省するとは思えないけど…

嬉々として、お金を手にする姿が目に浮かぶ。



だけどやっぱり、叔母の言いなりになっていた私にも責任はある。


子供の頃に救ってもらって、お世話になったのも事実。

でも期待を裏切って進学もせず、結局こんな形になった。


そんな、後ろめたい気持ちもあった。

だから何か少しでも形にして返すことで、罪悪感みたいなものを打ち消したかったんだと思う。



しばらく待っていると、電車が来た。

座席が空いていて、ほっとした。



電車が、動き出した。

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