11. 坂道を転げ落ちる日々

11-1

20歳になる前の、冬ももう終わり頃。


仕事が終わって家に帰ると、珍しく叔母が居た。

ダイニングテーブルに向かい、肘をついて頭を抱えている。



『ただいま…叔母さん、お店は?』


「今日は休み」



最近は、手伝いに出ることもめっきり減っていた。

特に何も聞かなかったけど、お店が暇になってきている状況は私にも分かっていた。



「里菜ちゃんさ…」


『はい』


「クレジットカード持っとったよね?」


『うん』


「あれ、どうしたと?」


『使わんけど、とりあえず財布に入れとる…』


「あれ…叔母さんにちょっと貸しちゃらん…?」


『え…?』


「ちょっと買いたいもんがあるとよね…でも手持ちがちょうど今ないけん…月末にはお金入るけん、使うた分は現金で返すけん」



じゃあその月末にお金が入ってから、買えばいいんじゃないの?と思った。

それか単純に現金が足りないなら現金を貸してといえばいいのに、何故カード…?


でももしかしたら、必要なのは結構大きな金額なのかもしれない。



『月末にカードもお金も返してくれるとよね?』


「返すよ」


『じゃあ…』



私は財布からカードを出して、叔母に渡した。



「ありがとう…月末には返すけん」



だけどそのカードは、叔母の手で私に返却されることはなかった。

今思えば、これが予兆だったかな。

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