09-4

私が就職活動に四苦八苦している、ちょうどその頃。

悠人くんが、あの溜まり場を出て自宅に帰った。


溜まり場にはそれからも出入りしていたけど、そこで生活するのをやめたということ。

自宅に帰りたくない理由が、なくなったから。



悠人くんの両親は、ずっと仲が悪かった。

それは私も、話に聞いて知っていた。


そしてその理由は、父親が水商売の女とデキてしまったからだった。

だから、悠人くんは水商売の女が嫌いなのだ。



相手の女とは別れたと言っていたらしいけど、結局再構築は出来なかった様で…

父親が出て行くという形で、離婚が決まったらしい。


再構築の間は自宅に両親揃っていたけど、喧嘩が絶えなかったそうだ。

あのオヤジとは、同じ空気を吸うのも嫌だと悠人くんはよく言っていた。



おまけにその父親と別れようとしない母親にも腹を立てていて、家を出たのはせめてもの反抗だったみたい。


あいつとは別れた方が、オカンも幸せになるのに。

それが分かるまでは、俺は帰らない。


そう、言い続けていた。



でもそれは決して、思春期故の潔癖な考え方や反抗心からだけでなく、悠人くんがお母さんを思っているからなのは私にも分かった。


あの時私に「とりあえず帰れ」と言ったのも、きっとそういうところから来ての言葉だったんだと、私は思ってる。



悠人くんが自宅に戻って、私は単純に嬉しかった。

それは悠人くんが嬉しそうな顔をしてたからだけでなく、もっとゆっくり会える様になったから。


彼氏の部屋に行くのは、小さな夢だった。

やっとそれが叶うことになった。



梅雨時期は、悠人くんの仕事が休みや中止になることが増えた。


私は私で、相変わらず仕事らしい仕事は見つからず…

叔母の店をオープンから閉店まで手伝い、少しばかりのお小遣いをもらって繋いでいた。



家事が終われば、昼間は時間がある。

悠人くんと、一緒にいられる。


お給料の心配をする悠人くんをよそに、私は明日も明後日もずっとずっとずーっと雨だったらいいのにとか呑気に思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る