08. 中学生ホステス

08-1

ある日…珍しく、あの溜まり場のインターホンが鳴った。

家人は留守。


ほぼ引きこもりのこの家の息子が、めんどくさそうに階下へ降りていく。

そして、叔母を連れて部屋へ戻って来た。



「来んね、帰るよ」


『いや!』


「もうすぐ学校始まるとやから!」


『学校はちゃんと行くけん!』


「何を言うね!こんなとこで勉強なんて出来るわけなかろうもん!」


『帰りたくない…』



半泣きの私と叔母のやり取りを、悠人くんはただ困った顔で見ていた。

たった何日かだったけど、四六時中一緒にいたから、離れることが一生の別れかと思うほどに辛かった。



叔母は私を無視して、目に付いた私の荷物をどんどん私のバッグに押し込んでいく。

そして、悠人くんに言った。



「あんた、彼氏ね?」


「はい…」


「忘れ物あったらうちに持って来て!そしてもうこの子とはなるべく会わんとって」



私はしぶとく食い下がった。



『私、帰らんよ!』


「これ以上私に恥かかさんとって!」



そして、悠人くんが小さく言った。



「とりあえず、一旦帰り…?」



ショックだった。

帰るなよ、一緒にいようって言ってくれると思ってた。


この時は、帰れと言った悠人くんの思いやりが分からなかった。



反抗する気力をなくした私は、叔母に手を引かれながら部屋を後にした。

短い、ママゴトみたいな同棲生活は、あまりにも呆気なく終わってしまった。



叔母はもう、私に期待なんてしていないと思ってた。


また勉強頑張れば、いい子になれば、悠人くんとも会わせてもらえるかな。

心に浮かぶ、淡い期待。


結局は、何かしら理由がなければ、何も頑張れない中学生だった。

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