02-2

家を出てしばらくすると、紗弥加が言った。




「久しぶりやね」


『うん…』




久しぶりと懐かしむほど、過去にちょくちょく会った記憶もなければ親しくした記憶もない。

だけどまぁ、久しぶりには違いない。




「伯母さん、とうとう帰って来んくなったっちゃね」




母が帰って来ないのを紗弥加が知っていたことに、私は少しショックを受けた。


そういえばさっき対面した時も、たいして驚いた素振りはなかった。

きっと、近いうち私が居候することになるとは、叔母に聞いていたんだろう。



どこまで状況を知られているんだろうか…

私は、何度か目にした光景を思い出した。


男にしなだれかかり、高い声ではしゃいだ様子の母の姿。

吐き気がした。

あんなの、知られたくない…恥ずかしい。


この頃になるとさすがに、母が何をしていたかくらい分かるもの。

不潔だとしか思えない。



「あんたさぁ…あたしの代わりに大学行かん?」



紗弥加、またもや突然。



『は…?』


「ババアがうるさいっちゃんね…大学くらい出とかんと、将来困るけんって」


『そうなん…』


「でもあたし行きたくないっちゃん。大学も高校も。美容師なりたいけん、気に入っとう美容師に弟子入りするつもり!でも美容師とかだめとか言うとよね~」




弟子入り…?

美容師って、国家試験に合格しなきゃいけないんじゃなかったっけ…



『なんでやろ…?』


「わっからん。とにかくもう決めたけんさ!やけんあたしの代わりにババアとうまくやって欲しいっちゃんね」


『はぁ…』


「ジジイはババアの言いなりやけん。どうせあいつら体裁気にしとうだけやし、自分ちから大学出したって事実が欲しいだけやとよ絶対。学歴コンプってやつ 笑」



紗弥加の言葉に、特に何の感想もなかった。


要は紗弥加が言うところの「ババア」に、私が気に入られたらいいんだろう。

私が思ったのは、それだけだった。


紗弥加は母親からの干渉が疎ましくて、ターゲットを私に逸らすことで、その干渉から逃げたいだけなのだ。

私はさっきの、紗弥加の顔色を伺う様な叔母の態度を思い出した。



いい子にしてた方が、大切にしてもらえるに決まっている。

お安い御用だった。


だけどそれは、簡単なのは最初だけだった。

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