溺れてみる?

第5話

「え?えぇっ?キス?」




秀ちゃんと私が?




驚きすぎて鞄を落とした私を見て、秀ちゃんはクスクスと笑った。



バカだなー、って。




「いちいちキスくらいで驚かないでくれない?」



「普通は驚くよ!」



「なんで?動物だってキスで愛を確かめ合うこのご時世で、そんな過剰に反応するのは梨子だけだよ」




そう言って秀ちゃんは落っことした鞄を拾って私に差し出してくる。




「あ、ありがとう……」




動揺しつつも反射的にお礼を述べながら鞄を受け取る。




「どーも」




秀ちゃんは鞄から手を離すと、ふっと唇の端に不敵な笑みを浮かべた。



悪い笑顔だ。



いつもと雰囲気の違う秀ちゃんに何故だか無性にドキドキする。




「と、ところで動物ってキスするの?」




お礼の話から話題を逸らしたい一心で秀ちゃんがさっき言ってた話を聞いてみる。




動物がキスする話なんて聞いたことがない。




しかし、秀ちゃんはバカにしたように小さく笑った。



当たり前じゃん?って。





「知らないの? 犬も猫も鳥もみんなキスしてるんだよ」



「本当に?」



「本当だよ。動物だって恋をするんだと思うんだよね。俺は」




そう言った秀ちゃんは何処と無く楽しそうで。

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