第102話

不意に、目をやると、母親の化粧道具が目に入った。

その中の真っ赤な口紅が、自分こそはと主張している。


そいつを手に取って、キャップを外すと、思いっきり紅の部分を出した。


「こんなものいらない」


鏡に向かって、紅い色を広げる。

何重にも広げた紅い線。ボロボロになった自画像のように。


一片一片地面に落ちて行った、わたしの欠片。

わたしの紅い花畑。でも、紅く広がった世界に、まがい物のわたしはいない。


この世界に行きたい。鏡の向こうの世界に。わたしがいない世界に。


「千歳。何やっているの」

怒号が飛んできた。母親だ。


「なんの嫌がらせ。学校に行きたくないのは自分のせいでしょう。ひとに八つ当たりしないで」

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