第86話

「わたしは、中原中也の方が好きだな。ゆあーんゆよーんって面白いでしょう」


突然口を開いた和菜に、千歳は、困った顔をした。この子は、言わない気だ。

何をしようとしているのか。自分が何者なのかを。


でも、こんな自分と話をしてくれるのだ。千歳は、和菜に答えた。

「ゆあーんゆよーんゆやゆよんでしょう」

「そう、それ。ゆあーんゆよーんゆやゆよんだよ」

和菜は笑った。

作り笑いなのか、本当に中原中也の詩の一節が面白くて笑っているのかは分からないが。


懐かしい。

こんなに懐かしい時があったのか。ほんの少し前、一緒に歩いたのが遠い日のように感じる。


もう、変わってしまったのだ。

あの頃と今とでは。

千歳は、誰かを貶めてあざ笑っていた幸せな頃とは違うのだ。

可哀そうなマリオネットになったのだ。

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