第85話

「千歳ちゃん」

「何、和菜ちゃん」

「何か考え事しているね」

「うん。立原道造のこと思い出した」

「立原道造・・・中原中也の本の隣にあった本の詩集のこと」

「そうだよ。その詩にあったでしょう。僕らはすべてを死なせねばならない」


和菜は、少し考えてから口を開いた。

「怖いよ。千歳ちゃん」

そう、和菜が呟くと、帰り道を並んで歩く二人の間に沈黙が流れた。


怖いと思うのは、千歳だった。

なぜなのか、疑問が不安を産んで広がっていく。なぜ、和菜が隣に歩いているのか。


そのことを聞く勇気を千歳は持ち合わせていない。何を企んでいるのだろう。何を言わせたいのだろう。何をする気なのだろう。


あいつらに告げ口する気なのだろうか。あることないことを。


隣を横目で見ながら、千歳は怯えていた。

この同い年の女の子の考えていることが分からない。


彼女は、いったいあの舞台で何者を演じる気なのだろう。彼女の正体がわからない。

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