第79話
千歳は、透明なガラスに両手をつき、少しの間、恨めしそうにあちら側を見るが、瞳に映るのは、蠅の集る肥溜めだった。
こんな場所に、自分は今までいたのか。こんな汚い場所に。
その口元に嘲笑を宿しながら、千歳は、ベランダの手すりに肘をつき、向こう側を見た。
どこまでも広がる晴れ渡る青空があった。
百日紅の木と桜の木、一年生の花壇が見える。
とても澄み切った風が吹いている。
こんな場所が広がっていたのか。この背に待ち構える肥溜めから外に出れば、こんなに清らかな場所が。
その左手に持ったボロボロになった自画像に、そっと右手を添える。
そして、その紙切れを半分に破る。
そしてまた、それを半分にし、細かく千切っていく。
手のひらの中に、幾重にもなった紙屑を溜めて、手すりの向こう側に差し出した。
手のひらを開くと、風に乗って、紙吹雪が舞う。
とても、綺麗だ。
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