第62話

大昔、この場所が村と呼ばれていた時代、この森では神隠しが頻繁にあったらしい。

秋葉街道という交通の要だったこの道の向こうには、山々が連なる未知の世界が待っている。


山に一度入れば、醜女の山の神様が人間をかどわかすのだ。

親の仕事についていく以外には、子供達は近づかない場所だった。


道祖神の隣には、老婆が座っていて、こちらに手招きをしている。


あの老婆に捕まれば生きて人里に帰ってくることはできないだろう。


あの老婆の本当の姿が人間ではないという確信があった。


あの老婆は昔話に出てくる馬頭観音の化身だ。

今では、誰も往来しなくなった秋葉街道に新しい客を求めているのだ。


身を任してしまえば、山の奥のお茶屋まで連れて行ってくれるだろう。

今は誰もいない、屋敷の土台の石積みだけが残った場所に。

そうしたら、帰りの道は一本道だけど、きっと山肌が崩れてしまって戻れないはずだ。


行きはよいけど、帰りが怖い。

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