第53話
「これがわたしのお母さん。本当の」
「うん。この中の一つが、千歳の体を作った卵子だよ」
そして、また一枚。
「これは、精子の方。千歳のお父さんだよ」
またもや冷凍庫の写真。
その冷凍庫の中身も、試験管だった。
「この中のどれか一つが、わたしのお父さん」
今にも、冷気を感じそうな冷たい場所の写真。
とても人が生きていられそうにもない場所に、千歳の両親が居ることが分かった。
人間じゃない。
千歳は、自分の本当の両親が、人の形をしていないことを知った。
それじゃあ、あの人は誰なのだろう。
自分をわたしの子と言っていたあの女性の正体は。何処にも居ない。本当のお父さんも、お母さんも、この世界には、どこを探してもきっといない。
その事実に、千歳は、自分の心が、乾ききってひび割れていくのを感じた。もう、この地面には、雨も降りそうにない。
一つ、最後に残った写真がある。
バイクを背に写る、若い、二十代くらいの男性の姿だ。
今よりも少しばかり若い父親と一緒に写っている。
人間だ。
本当のお父さん。
でも、もう、探し疲れたよ。
誰でもいい。本当のお父さんなんて、もう、誰でもいい。
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