第52話

それは、五月のこと。

少し早めの梅雨の気配がする雨の日。雪が降るはずもない。

千歳はそれでも祈った。


この世界を真っ白い世界に変えてください。


寂しさを埋めてください。


びしょ濡れで辿り着いた、帰りたくはないけど、来てしまった場所。


玄関のドアをそっと開ける。

勇気とわけもなくイラつく気持ちと一緒に。

「どこ行っていたの」

まるで何事もなかったかのような母親の言葉。


帰ってきた千歳が見せられたのは、数枚の写真だった。

本当の父親と母親の姿。

または、残酷な真実。

「これが、千歳の母親だよ」

父親がそう言って見せてくれたのは、一枚の冷凍庫の写真。

二枚目には、冷凍庫の中身。

冷凍庫にあったのは、何本もの試験管だった。

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