第50話

自分を外に追い出すような、あんなに感情的でヒステリックな人は本当のお母さんであるわけがない。


どこか、これから辿り着くのであろう場所に居るはずだ。優しくて、自分の話を聞いてくれる温かい人が。

もう一度、抱かれることができるかもしれない。



農協の前の、屋根のない、時刻表以外に青いベンチがあるだけのバス停で、しばらくの間バスを待つ。

雨に打たれながら、もうここには居られないと思いながら。


すると、目の前を車が通った。

無数の雨の打たれるのが煩わしそうに、ワイパーをまわしていた。

視界が悪かったためかもしれない。千歳の前を横切る瞬間、灰色をした水たまりに勢いよくタイヤが乗った。


水たまりは、飛沫をあげる。

千歳は、その水しぶきをまともに浴びてしまった。

そこに人がいることなど、分からなかったのかもしれない。車はそのまま走り去った。


嗚咽が漏れる。


ほんの少しの叫び声。涙を雨で誤魔化す。叫びを雨音でかき消す。

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