第48話
バスに乗り込めば、安堵が心に広がる。
希望に満ち溢れた新しい世界が待っているような気がしたからだ。
また、使命もあった。愛する人の血を引く子供を、まるで物を扱うように使われた精子の持ち主を、人として扱われるように、取り戻せるように。
自分には、それができる。
なぜなら、彼と愛し合った過去があり、本当は自分が産むはずだった赤子を今、この手に抱いているからだ。
しかし、あと少しだった。
自分と彼が住んでいたアパートに行くため、JR の駅で、バスから電車へと乗り換えるその時だ。
停車したバスの出入り口から、冷たい冷気と舞い込んできた風花と共に、あの夫婦が乗り込んできたのだ。
「返して。その子は、わたしの物なんだから」
妻が、抱いた赤子を奪い取った。夫は、女性を押さえつけ、後から乗り込んできた警察に身柄を渡した。
そして、小さな誘拐事件は終わる。
警察に連行されながら、悲しそうな瞳で、女性は、小さくなっていく赤子の姿を追っていた。
舞台の上で、紅色の暗幕が開く。
でも、物語の主人公、ピノキオは、何もしゃべることもできず、丸太のまま、その姿を人形にすることさえありませんでした。
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