第46話

なぜだろう。

涙が、出ない。


あまりのことに驚いていてそんな暇はないからか。


それとも、もう、地面は濡れた後で、雨で涙を誤魔化しているからか。


千歳は、静かに両のこぶしを握りしめた。



「あの子、記憶があるのかな。まだ赤ちゃんだったのに」


「ああ、あるのかもしれない。あの女性のこと覚えていたのか」


「あのむかつく女、こんなに時が経ってからも、わたし達のことを邪魔するなんて、本当に嫌な女」




それは、小さな誘拐事件。新聞にも載らないささいな出来事。

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