第45話
「千歳が悪いの。わたしがあの子の話聞く気分じゃないの、知っていてあの子、わたしに話しかけるから。・・・そもそも、無理なの。秘密なんていつか暴かれるものでしょう。日に日にイライラしてくる。あの子があなたのあのバカな弟に似てくると、本当に気分が悪い」
「やめてくれる。俺の弟をバカなんてよく言えるな。夫の弟だぞ」
「だって本当のことじゃない。自分で勝手に死んでくれるようなバカは、バカでしょう」
父親は、その母親の言葉に頭を抱えて黙り込んだ。
「いくら、質のいい遺伝子を卵子に使ったって、片方がバカなら、親のバカは誤魔化せないものだね。千歳が全部悪いの。空気は読めない、おかしなこと言い出す。そんなのだから、こんな風に嫌な感じになるの」
母親は、千歳の肩を何度も右の手のひらで押しながら、千歳を窓際へ誘導した。
窓を人一人通れるくらい開けると、今度は両方の手のひらで千歳の肩を力強く押した。
千歳の体は、窓の外の庭へと落ちた。
「お母さん」
無意識で呼んでいた。
この人は、自分の本当の母親ではないはずだが、長年呼び続けてきたためだ。
だが、縋り付くように言ったが、母親には、届かなかった。
外は土砂降りの雨。千歳は、水たまりの泥水の中へ腰をつくと、開いたガラス窓が閉まり、鍵がかけられるのを見た。
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