第44話
「わたし、本当のお母さんに会ったことあるでしょう。そこの人じゃなくて、わたしの本当のお母さん。わたしを産んでくれた人、そこにいる人じゃないでしょう。わたし、言われた。そこにいる人に、わたしの本当のお母さんは別にいるって。わたしのお母さんは、わたしを連れてどこかへ行こうとしていた。わたしとお母さんは、一緒にバスに乗って帰ろうとしていた。わたしの本当の家に・・・」
言い終わる前に、母親から怒号が飛んできた。
「バカなこと言わないで」
母親は台所の手吹きで素早く手を拭くと、足早に千歳に近づき、目の前に立った。
「何言っているかわかってないんでしょう。そんなありえないこと言うなんて、寝ぼけているんでしょう。起きてきて、開口一番、本当のお母さんはどこなんて言うのは」
千歳の肩を掴み、グラグラと揺らしながらまくしたてる。
みかねた父親が、母親の肩に手を置いて、なだめながら聞いた。
「千歳が試験管ベイビーだと話したのか」
「そんなこと今はどうでもいいでしょう。この子がバカなこと言っているのが問題」
「どうでもよくない。それは秘密にすると、お世話になった産婦人科で先生に言ったよな」
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