第42話

「あいつらなんかに渡しはしないから。千歳の帰る場所は、わたしとあの人の家でしょう。わたしが、千歳の本当の母親なんだからね」


何も見えていない瞳に、少しの恐怖を感じながら、その腕の温かさに郷愁を思わせた。


この女の人は、千歳の本当の母親なのかもしれない。


その人が連れて行こうとしたのは、本当の自分の帰る場所。


彼女の愛情はあまりに研ぎ澄まされて、恐ろしく黒光りしている日本刀のようだ。

残酷に千歳の心を一刀両断する。その衝撃で気付くのだ。


そうか、ここにいたのか。

自分の母親は。やっと見つけた。


ただ、縋り付くように、彼女の面影を追いかけて、夢から覚めた。


生まれたての赤子は正直に、自分をまっすぐ愛してくれる人間に縋り付くものだ。

「わたしのお母さん・・・」


寝床から起き上がると、いてもたってもいられずまっさきに向かったのは、父親の元だ。

外は、雨。

雨音がざーっと鳴っている。

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