第33話

目の前に舞い降りた和菜の背に、翼の幻を見ながらも、きっと、この子は自分を深く傷つけると予感している。


そうじゃなければ、自分が無知として生まれた意味がない。知ることがないはずはないのだ。痛みを。


ただの、自分を助けに来た天使など、いようはずもない。


戻るほかに選択肢はなかった。

戻らなければ、この四角い箱で繰り広げられる物語の登場人物ではなくなってしまう。



そうしたら、自分は、いったい何者なのだろう。


蜘蛛の糸は少しでもいい。彼女に縋り付いて、いつかあいつらに成り代わってやるのだ。


復讐だ。


あいつらの内誰でもいい。何者かになってやるのだ。

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