第29話

「千歳ちゃん、何か用」


はっとして我に返ると、目前に和菜の姿があった。

和菜は、ハサミとフェルトとマジックペンを手にこちらを見ている。


「和菜ちゃんこそどうしたの」


千歳はペルソナを使う。

いつものように、あの四角い箱で生きる誰もが被る面をその肉につけて。


和菜は、千歳が、その肉付きの面をつける瞬間を目撃する。

が、しかし、和菜はその瞬間を無視して言った。


「どうしたも、こうしたも、わたし、人形劇クラブだから、夏にやる人形劇の人形を今からクラブの人達と一緒に作るところ。ここ、部室だから」


そう言って和菜が目配せしたのは、視聴覚室だ。

北校舎二階の視聴覚室は、人形劇クラブの部室なのだ。

こんなところまで来るのは、人形劇クラブの部員か、その顧問の先生くらいなのだ。


だから、和菜は、不思議に思う。なぜ、クラブの部員でもない千歳がここにいるのか。

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