第27話

わたしは、何者?


めったにでない笑顔を作り、その場を取り繕う。

「わたし、試験管ベイビーみたい」


やんややんやと人が集まってきた。

野次馬?いや、観覧者だ。処刑台に上がる魔女を見ているのだ。


耐えられなくなって、人をかき分け、教室を飛び出した。


知られた。


わたしが、可哀そうな、そう、人造人間の試験管ベイビーだって。


こんな時、同情をかうはずの涙が、うまく出てこない。


泣けば自分の思い通りになると思っているの?


いつか、お母さんに言われた言葉。

今も千歳を縛っていた。


泣き叫べば、ただ排出されただけの赤子に逆戻りだ。


歩いていた。


放心したまま。

南校舎二階の五年の教室から離れた、北校舎二階の視聴覚室まで来ていた。


「千歳ちゃん」

千歳は、驚きで肩を震わせた。振り向くと、そこには、いつもつるんでいる和菜がいた。

「和菜ちゃん」

無表情でつぶやくと千歳は和菜の前を通り過ぎようとした。

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