第20話

千歳がまともに会話をしたのは、初めて会いまみえた時だった。


まだ、祖母とは会話ができたが、それは、会話という会話ではなかった。


一言だった。祖母が言ったのは。


ただ、一方的に、機械的に生産されたかのように投げ出された言葉だった。



「よく、精巧にできているんだねぇ」



好奇心が潜んでいたのだろうか、あの眼差しには。

そう言って頭を撫でるでもなく、舐めるような視線を千歳の体に這わせてから、瞳を閉じた。


アンモニアの臭い。

腐臭ともいえる鼻に突く臭い。汚物にまみれてそれでも生きていた。


母は言った。

「早く死んでくれればいいのに」


千歳はそれに何を思うこともなかった。そういうものだと思っていた。

流されるままに、祖母に嫌悪感を抱いたくらいは。

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