第45話

「お待たせいたしました」



僕は頑張って口角を上げ、ぎこちない笑顔で、オムライスと、フルーツヨーグルトをテーブルに置いた。



しかし弥生さんは、僕には目をくれず、テーブルの端っこで、一生懸命、何かを書いていた。



――――聞きたい事――――


①マスターの視力、身長、誕生日

②チロルは何歳

③ 好きなスイーツ

④サーフィン

⑤ 両親への思い

⑥おじさん、おばさんへの思い

⑦マスターの話したい事

―――――――――――――――――――――



「弥生さん、何を書いているんですか?」



「これは私がマスターに聞きたい質問です。会話につまずいたら、このお題で、話しましょう」



僕は、紙を覗き込み、①を見て首を傾げた。



「①はなぜ視力なんですか?」



「気になるからです」



弥生さんはそう言った後、オムライスを美味しそうに食べ始めた。



僕は、リストを手に取り、質問に対する答えをぼんやり考えていた。



すると弥生さんは、



「あれ?マスターのオムライスは?やっぱり、私と一緒に食べたくないんですね」



と不貞腐れた顔を見せた。



「えっ、あっ、違います。今、持ってきます」



僕は慌てて、オムライスをキッチンに取りに行き、弥生さんの真向かいに座った。



オムライスをひとくち口に運んだが、緊張と恥ずかしさで、なかなか飲み込めなかった。




すると弥生さんはクスクス笑い出し、



「マスター、可愛いですね。モグモグがリスみたい」


と、僕を見つめながら言った。



その瞳は、きらきらとし、眩しかった。



「ところでマスターは、目が悪いんですか?今はコンタクト?」



お題の質問が再び始まった。



「……視力は左1.2、右1.0…………です」



「じゃあ、あれは伊達ですか?……それとも老眼ですか?」



「あぁ……そう言う事ですね……仕事の時の眼鏡は伊達です。ちょっとしたコスプレです」



「なるほど」



「でも、老眼って……僕、そんなにおじさんに見えますか?」



「最初は、50代かと思っていました。――でも今は違います。笑うと20代前半に見えます」



「50代かぁ……」



褒められたはずなのに、50代だと思われていた事にショックを受け、僕は苦笑した。



「身長と誕生日を教えて下さい」



「僕の身長は182センチ。誕生日は、11月11日です」



「マスターの誕生日、ポッキーの日ですね」



「ポッキー?」



僕は思わず笑ってしまった。



「マスター、目が綺麗だから、笑うと素敵ですよ」



弥生さんはそう言って、聞きたい事リストを冷蔵庫に貼り付けた。




そう言えば、笑い方を忘れてしまった僕が、知らず知らずに笑っている。



弥生さんのおかげかも知れない。



弥生さんは、気さくで人を楽しくさせ、幸せな気分にさせてくれる人だ。



チロルの家に食べに来た時も、隣に座ったお客様に気軽に話しかけ、


『これが美味しい』とか、『トーストは厚切りでお勧め』だとか、悩んでいるお客様に説明をしてくれてたりする。


それと、グループ客が、バラバラで座る事になると『私、席移動しますよ』と席を移り、他のお客様まで、席を譲り、いつしか輪ができ、みんなが笑顔になっている。



そして、弥生さんと会話したお客様は、会計時『楽しかった』と言葉を残し帰って行く。



僕はずっと、そんな弥生さんの人柄に憧れていた。

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