第2話

私は、退職する事が決まっていた。来年の結婚に向けて、彼氏と同棲するため、この町を引っ越すからだ。



だから、もしかしたら、南さんとも最後になると思い、お別れの挨拶をした。



「南さん、実は私、今月いっぱいで仕事、辞めるんです」



「あら、どうして?……寂しくなるわねぇ。もしかして……結婚???」



「はい。結婚は1年後ですが、同棲するんです。花嫁始業もしようと思いまして、、、料理教室通ったり」



「あら、彼氏できてたのね――そうよねぇ、あれから2年も経つもんね」



「南さんと出会ったばかりの時は、彼氏はいませんでしたが……その後できたんです」



私は他の会員さんには、プライベートはあまり話さなかった。退職の理由も、お菓子作りの勉強だと、嘘ついていた。



でも南さんは、特別な気がして、本当の事を話した。



「まだ22歳よね?もう結婚しちゃうのね、残念。――あなたみたいなお嬢さんが、うちの甥っ子にって、狙っていたのに」



南さんが、冗談混じりに話し、

私は、話を盛り上げようと質問を返した。



「南さんの甥っ子さんって、何歳なんですか?」



「弥生ちゃんより10も上の、33歳。――そこの喫茶店で働いてるわよ」



南さんは外を指差した。



そこには、"チロルの家"が見える。私はそこの常連客だった。



「えっ!もしかして、甥っ子って、チロルのマスターですか?」



「そうそう」



私の驚く顔を見て、南さんは笑った。



マスターが南さんの甥っ子という事にも驚いたが、まだ33歳だという事の方が、衝撃的だった。



マスターの身なりは、

髪をポマードで七三分けにし、

昭和レトロな、セミオート型の眼鏡をかけ、

YシャツやTシャツはいつもベルトにイン、

スラックスはツータックで、

丈は足首ぐらいの短さだった。



だから、50歳ぐらいかと思っていた。



そんなマスターの、ある噂話を私は知っている……



だから、少し探りたいと思った。

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