第24話:「再びの邂逅と迷子の少女」
唐突に目の前に現れた俺たちの姿を認めた少女たちは、怪訝そうな顔を浮かべた。
「……?」
「おねえちゃん、この人たちだれ?」
「あ、いや……俺は──」
「お嬢ちゃん、突然ごめんね! 大丈夫、私たちは変な人じゃないよー」
変な人は大体そういうことを言って近づくんだぞ。
無言で抗議の視線を送るが、ティオナはジト目でこちらを睨み返し、小声で「ほらっ!」と言いながらフードを取れというジェスチャーをしてくる。
俺は渋々それに従ってフードを取り、再び少女達に目線を向けた。
「……ほら、これでいいか?」
「あ。あなたは昨日の……」
少女は何か合点がいったようで、目を丸くしている。
が、ここの三人が顔見知りだからといって、子供からしてみればなんのこっちゃという話だ。女の子は不思議そうに首を傾げながら俺たちを見上げている構図になっている。
そこにすかさずティオナがフォローに入った。
「私とお兄さんは、そのお姉ちゃんのお友達だよー。……こんにちは、ノエルさん。たまたまお見掛けしたら何やらお困りのご様子でしたので、来てしまいました」
「あ、そうだったんですね。お気遣いありがとうございます。ええと……」
黒髪の少女──ノエルは、一応の現状に納得はしたものの、こちらのことはよく知らないので困惑している。
それを見た俺は、ノエルに自己紹介をした。
「急にすまんな、俺はハンターのヴァニだ。で、こっちはティオナ。ハンターギルドで受付嬢をしてる。んで、お嬢ちゃんにはなんて説明したらいいんだか……」
「えっとね、リネアはリネアっていうの! よろしくね、ヴァニおにいちゃん、ティオナおねえちゃん!」
「はは、そっか。リネアちゃんか。元気があって何よりだ」
どうやら女の子──リネアは賢いらしく、俺たちのことをすんなりと受け入れると笑顔で自己紹介をした。
そんなリネアに目線を合わせ、その頭を軽く撫でてやると、彼女の二つ結びにした淡いピンクの髪がぴょこぴょこと跳ねる。
「ヴァニさんとティオナさんですね、私はノエルといいます。それから、えっと……ヴァニさん、昨日はありがとうございました」
ノエルはリネアの様子を見て微笑を浮かべると、それから真剣な顔で俺達に向き直って頭を下げた。
「いや、気にしなくていいさ。勝手にやったことだし。ま、その話は置いとくとして……この子、迷子なんだろ? よかったら親探し手伝おうか?」
そう提案すると、一瞬思案するような顔をしてからノエルは頷いた。
「……そうですね、ご迷惑でなければお願いします。実はあまりこの辺りの土地勘がなくて、私一人では見つけてあげられるかどうか困っていたので……」
「そうなの? じゃあノエルおねえちゃんも迷子だ!」
「あはは、そうだね。お姉ちゃんも迷子かもしれない。でも、リネアちゃんのお母さんは絶対見つけてあげるからね!」
「ありがとう、ノエルおねえちゃん! リネア、ノエルおねえちゃんのこと好きー!」
人懐っこそうにノエルに向かって突撃するリネアを見つつ、俺は立ち上がった。
人通りはそれなりに多いが、晴天ということもあって視界は良い。
注意深く辺りを観察しながら探せば、彼女の親御さんもすぐに見つかることだろう。
しかしそこで、ティオナが申し訳なさそうに手元の懐中時計を見ながら言った。
「ごめんねー、私も手伝ってあげたいんだけど、お姉ちゃんこれからお仕事に戻らなくちゃいけないんだ。でも、ノエルお姉ちゃんとヴァニお兄さんならリネアちゃんのお母さんのこと、絶対見つけてくれるからね! 二人とも私よりずっと凄い人たちなんだから!」
ティオナは胸の前で小さくガッツポーズすると、ニコッと笑った。
まぁ、そりゃそうだよな。
むしろ貴重な休憩時間を割いてここまでしてくれただけで感謝するレベルだ。
「それじゃあ、ノエルさん、ヴァニさん! 頑張ってくださいね!」
「はい、ありがとうございました!」
「ああ、ティオナも頑張ってな」
去り際、ティオナは俺にだけ聞こえるように耳元でポソッと呟く。
「今度、どうなったかお話楽しみに待ってますからね♪」
そうして今度こそ、ティオナは時折こちらを振り向いて手を振りながら人混みの向こうへと消えて行った。
いや『どうなったか』って何がどうなるって言うんだよ……。
リネアの親御さんを無事に見つけられたかどうかってことか?
それとも、ノエルとの関係性が進展したかどうかってことか?
ここまでの流れの感じから察するに、ノエルとのことなんだろうが……。
一々報告するようなことなんて何も起こりはしないと思うが、まぁいい。
恋バナってやつは気になってしまう生き物なのだろう。
といっても、別に俺とノエルはそういう仲じゃないし、本当にこれっぽっちもそういう意味で意識はしていない。
ノエルにとっても当然同じだろう。何せ、昨日今日顔を合わせたばかりなんだから。
それは一旦意識の外に追い出すとして。
まずはリネアの親を探さないとな。
「んで、リネアちゃんはどの辺りで親御さんとはぐれちまったんだ?」
「んーっとね、よく分かんないの。気付いたらおかあさんがいなくて、それで……」
そう語るリネアの目尻にはどんどん涙が溜まっていく。
おっと、これはまずいかと思いつつ見守っていると、リネアはゴシゴシと目元を拭って顔を上げた。
まだ十歳にもなってないくらいの子供だというのに、大したもんだ。
「リネア泣かないもん!」
「偉いんだね、リネアちゃんは」
ノエルがそう言って再び頭を撫でてやると、リネアは笑顔を見せた。
それから、思い出したようにノエルが口を開く。
「たしか私がリネアちゃんを最初に見かけたのは、あちらの方でした」
「ん」
ノエルの指差す方は、観光客をメインの客層にした、土産屋などが建ち並ぶ通りだった。
もしかすると、リネアは観光にやってきた家族なのかもしれないな。
親とはぐれた迷子というだけでも不安なのに、見慣れぬ土地でひとりぼっちとなればその恐怖は計り知れないだろう。……こりゃますます早く見つけてやらないと。
「よし、それじゃ行くか。リネアちゃん、肩車は好きか?」
「うん! おとーさんがよくしてくれるよ!」
「そうか。それじゃ、俺もしてやろう」
「やったー!」
とりあえずリネアは肩車することに決定。
こうすることではぐれる心配がなくなる上に、視点が高くなることで本人も親御さんを見つけやすくなるだろう。
リネアはまだ小さな子供だから、肩車してやった程度で俺の動きに支障をきたすわけでもないしな。
後は全員で辺りを探しつつ適当に歩き回ればいい。
「よっしゃ! そんじゃあリネア探検隊、出発進行だ」
「おー!」
「お、お~……!」
場の空気を明るくするために適当に掛け声を上げると、リネアが元気よくそれに続き、ノエルは少し気恥ずかしそうに小さく拳を突き上げる。
かくして昼過ぎの平穏な街中での小さな探検が幕を開けた。
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