第48話

彼といると、やっぱり心が安らぐなぁ……



そんな事を思いながら、壁によっかかり座り込むと、彼も私の隣に、ピッタリとくっついて座り、リュックから、プレゼントらしき品物を出し始めた。




「さ、沙也加さん、こ、これ、クリスマスプレゼント。さっき出来上がった」




それは、赤と緑色の紙で包装された、長四角い形の物だった。  




「開けてもいい?」



「うん」




包装紙を開くと、額縁に入れられた、絵が入っていて、その絵は繊細で、色鉛筆で描いたとは思えないほど艶やかで、まるで写真のように美し物だった。



「これ、私の絵?」



「うん。沙也加さんからもらった、色鉛筆で描いた」


 

「そうなんだぁ。綺麗……ありがとう」




彼は頬が触れそうなぐらい、顔を寄せてきた。



私は目が腫れていて、それが恥ずかしくて、ちょっと離れて座り直すと、彼も私の隣に座り直し、こう言ってきた。



「す、す……好きです。か、彼女になって下さい」



鼻筋の通った高い鼻、キリリとした奥二重の目、濁りのない黒目がちな瞳、シュッとした顎先。



そんな整った顔に見つめられながら、好きと言われ、私は泣きそうになった。



もう恋とか、恋愛とか、私には無縁だと思っていて、友達になってくれただけでも感謝なのに……



でも私は、彼女になれないから、わざと悪女を演じた。





「侑くんの思う、彼女って何?友達じゃあダメなの?」



「と、友達と彼女は違う。彼女は、手を繋いだり、ハグしたり、キスして、ずっと一緒にいる人」 



「キス?……侑くん、キスした事あるの?」



「あるよ……キスして、一緒に寝た」



「ね、ねた……?」




予想外の彼の答えに、一瞬驚いたが、


よくよく話を聞くと、保育園の先生のほっぺにチューして、隣で一緒に昼寝したと言う可愛らしいエピソードだった。




「侑くんは、まだまだ青いね。そんな子供が、彼女を作るのは、まだ早いよ。私は子供とはつきあえない」




私は彼を、小馬鹿にするように、ゲラゲラと笑って話した。



案の定、彼はムッとし、


「ぼ、僕は子供じゃ無い……」と、向きになった。



それでも私は、彼をおちょくりながら、嫌われるような発言を続けた。



「だって、ほっぺにチューだよ。しかも相手は、保育園の先生って……それをキスだと思っている時点で、お子ちゃまなの」




すると彼は、私の頭を両手で押さえ、自分の唇を私の額に触れさせた。



私は何が起こったか、一瞬理解できなかったのだが、彼の放った言葉が、私の心を熱くした。




「次は本物のキスを……さ、沙也加さんと……してみたいです……だから彼女になって下さい」



その言葉に、心臓は壊れそうなくらいに波打ち、さっきまで何のやり取りをしていたのか、記憶が飛ぶほど動揺した。




「わ、わ、私、34歳だよ。侑くんより15も上だよ、お、お、大人を揶揄うんじゃ……ありません」



「ぼ、僕は、沙也加さんがいい……沙也加さんじゃなきゃ、嫌だ。僕の事、嫌い?」



「嫌いじゃないよ。でも、今まで通り友達でいいじゃん」



「さ、沙也加さん、いつもそう言うけど、友達って、何?」




今度は私が、彼に質問された。




「友達は……えーと、メッセージでやり取りしたり、たまに外で話したり……」



「た、た、たまにってなに?外ってなに?そ、そんなの嫌だ。だ、だから彼女がいい」




彼は一生懸命、気持ちをぶつけてきたが、私には、話を誤魔化すことしか出来なかった。




「付き合うにしても、ほ、ほら、お父さんがきっと許さないから」



「ほ、本当は、ぼ、僕が障害者だからだよね?だから嫌なんでしよ?本当の事、言って」




彼の寂しそうな顔が、私の胸を苦しめた。


彼にどう話したら、彼は壊れる事なく、理解してくれるのか、私は言葉を選びながら、ゆっくりと話した。




「私は、自閉症の侑くんが好き。純粋で優しくて。でも侑くんは、まだ子供だから、お付き合いはできない。お父さんだって許さない。だから、もう少し大人になったら……その時考えよう」




彼は頷きながら、話を聞いてくれて、私は彼が納得したんだと思った。



しかし彼は、大喜びし始めた。




「ぼぼ、僕、明日誕生日。20歳になる」



「えっ、、、誕生日なの?」



「そう。あ、明日僕は、大人になる」



「そっか、おめでとう」



「あ、明日から、ぼ、ぼ、僕は大人だから、門限も無くなるし、外泊できる。お、お父さんの許可が無くても、結婚もできるし、沙也加さんとの子供も授かれる」




彼はめちゃくちゃな事を、自信たっぷりに話し出し、私は彼の将来が心配になった。




「侑くん。ちょっと……話し合いしよう」




私は彼をテーブルの前に座らせ、ノートを出した。



彼が将来、私ではない別な子と巡り会えた時、彼がその子と幸せになれるように、立派な大人になるための約束事を、私は書き出した。

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