第35話
私は彼に手を引かれ、彼が言う『近道』を歩いた。
そこは、誰も通らないような裏道で、電灯が数本立っているだけの薄暗い場所。
静まり返った空間に、雪を踏みつける音だけが響き渡った。
少し歩くと、林のはるか向こうの方に光が見え、
イルミネーションに飾られた広場が顔を出し始めた。
その場所は、青空公園で、周りは、クリスマスの装飾に彩られ、フェンスや小さな木に飾られた電飾が、綺麗に輝いていた。
私は、その光景を少しだけ眺め、彼にさよならをした。
「じゃあ、またね」
ポケットの中の握られた手を、離そうとし時、
彼の手は、私の手を離そうとせず、強く握り返した。
「さ、沙也加さんと一緒に、こ、これを見たかった」
彼は白い息を吐きながら、私をじっと見つめて言った。
私は、恥ずかしくて目を逸らし、
「綺麗だねぇ〜。もうすぐクリスマスだね」
と、イルミネーションをじっと見た。
すると彼は、下を向き、ぶつぶつと何か言い出した。
「あの、あの、24日の、クリスマス……さ、沙也加さんと、す、す、過ごしたい……」
「ん?何?聞こえない!」
「さ、沙也加さんと、ク、クリスマス、す、過ごしたい」
私は、その言葉に……戸惑った。
日が経つごとに、彼との距離感は近くなり、彼は、何回も会いたいと言うようになっていた。
私も私で、心の傷を癒したくて、彼に言われるまま、ずるずると時間を共にするようになっていて……
でもどこかで、線引きしないと、友達以上の関係になりそうで、それが怖くて私は断った。
「私達は友達だよ。だからダメ」
しかし彼は、怯むことなく反発してくる。
「と、と、友達同士だって、クリスマス会やるよ」
「やりません。…その日は、家族と過ごしなさい……」
「や、やだ……沙也加さんと、過ごしたい」
彼は、まるで反抗期の子供のように眉を顰め、私の目をじっと見つめた。
「いつか言おうと思ってだけど、もうこうやって会うのはやめよう。お父さんにバレるの嫌だし」
「じゃぁ、お父さんに話す。さ、沙也加さんとの事、ゆ、許してもらう」
「反対されるから絶対ダメ……もう、昔みたいに、仕事場で会うだけの関係に戻ろうよ」
「な、なんで……」
「なんでって……私達は、友達だから……」
「ぼ、僕の事……嫌いになった?」
「……」
私は、どう話せば彼が納得してくれるのか悩み、言葉に詰まった。
すると彼は、我を忘れたかのように、声を上げて泣き散らし、
周りの通行人が、不思議そうな顔で、こっちを見た。
あの時もそうだった。
彼は怒り出すと我を忘れる。
どうにかしようと思い、私は彼にいろんな言葉をかけた。
「24日に、侑くんのお父さんの美容室に髪切りに行ってみようかなぁ?」
「そ、そんなの、嫌だ」
「じゃあ、24日、侑くんのおばあちゃんと、3人でランチする?」
「…………嫌だってば……嫌だ、嫌だ、嫌だ、2人じゃないと嫌だ――」
彼の怒りは治まらず、今度は動かなくなった。
「じゃあさぁ、24日、プレゼント交換だけやろう。それで、別な日に、一緒にハンバーグ作ろううよ」
「……ほ、ほんと……?」
「だから24日は、家族と過ごしてね」
「う、うん」
私は小指を出し、彼はその指に、自分の指を絡めた。
「や、約束……だよ」
彼は笑顔を取り戻し、私に大きく手を振り、帰って行った。
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