悲嘆
第31話
ある日、私がレジに入っていると、見覚えのある女性が、買い物カゴをレジ台にのせた。
「あれ?高橋さん?
その声に私は動揺し、レジを打つ指が震えた。
その女性は…………
侑輝の同級生の、彩月ちゃんのお母さんだった。
彩月ちゃんは、保育園時代に侑輝と一緒で、小学校に入学する前に、転校した。
確か、旦那さんの仕事の都合で、仙台に行ったような記憶があるが、まさか福島で会うなんて……驚き過ぎて、心臓がバクバクと鳴った。
「私達、3年前に、転勤で仙台から福島に来たの……高橋さんはどうしてここに?侑輝くんは元気?……あれ?」
彩月ちゃんのお母さんは、私のネームプレートを見て、言葉を止めた。
「あ、私、1年前に離婚しまして……川村になったんです。侑輝は、ここにはいません」
「あっ、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
私は一生懸命、口角を上げ、作り笑いをした。
「じゃあ、また来るね」
彩月ちゃんのお母さんは、笑顔で手を振り帰って行ったが、
私は恐怖を感じ、しゃがみ込んだ。
私がこの町に引っ越して来たのは、私の事情も、私の過去も、この町の住人達は知らないからで……
だから選んだのに、
私を知る人がこの町にいたと知り、私は落胆した。
彼女によって、私の過去が周りに広がったら、
私はどんな顔をして、この町で生活をすればいいのだろう?
仕事をやめるべきか……
それとも、この町から逃げるべきか……
――いや、でも彼女は、
私が離婚した事を知らなかった。
だからきっと、昔の仲間とはもう繋がっていなくて、
あの出来事を知ることは、きっとない。
私が彩月ちゃんのお母さんと会わないようにすれば、過去は掘り返されない。
だから私は、彼女と会わないために、この店を辞め、茶々丸農園に異動させてもらえないか、相談してみることにした。
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