第30話

次の日、私と彼は、アパート近くの『青空公園』で待ち合わせをした。



彼は仕事で、14時の待ち合わせだったから、


私は朝一番で美容室に行き、めいいっぱい化粧をし彼が来るのを待った。



もしかしたら、絵のモデルにされるかもと、期待をしていた。




少し待つと、彼が走ってやって来た。 



「お疲れ様〜」



私が彼に声をかけると、彼は私の顔を見て、目を丸くした。



私は、化粧が濃過ぎたのだと思い、



「化粧、変だった?」と話すと、



彼は目を合わさず「へ、変じゃ、ありません」と言葉を返した。



そして小走りでベンチに向かい、座って道具を取り出した。



私は、絵のモデルになる気満々で、彼の隣に座り、身なりを整えたのだが、



彼は、スケッチブックと色鉛筆を持ち、


「あ、あっちに行く」と言って、私から離れた。




彼の視線は空に向けられ、



彼が描きたかったのは、私では無く、風景だったと知った。



勘違いした私は、すごく恥ずかしくなり、彼の側から離れた。



そして、公園の中を少し歩き、周りを観察していたのだが、



公園の中には、犬を散歩させる夫婦や、ランニングをするおじさん、子供と遊具で遊ぶ家族がいて、


普通に挨拶を交わし、笑い合ってて、幸せそうで……


そんな普通な日常が、私には羨ましく映り、知らず知らずに、涙が流れ落ちていた。



やばい、彼に涙を見られる……



私は慌てて涙を拭き、彼の方を見ると、



彼は私に目もくれず、私の存在を忘れたかのように、絵を描いていた。



結局、私はひとりぼっち。


寂しさだけが胸を締め付け、私はボーっと、夕日を眺めた。



そして気が付けば、時間はもう17時40分を過ぎていて、私は彼に声をかけた。



「侑くん、もう時間だよ。帰らないと怒られちゃうよ」



しかし彼は、「も、もう少しだけ」と言い、


それから20分、絵を描き続けた。



そして、スケッチブックからその絵を切り離し、私に渡した。




「沙也加さんに、あ、あげる、じゃぁね」




彼はそう言葉を残し、猛ダッシュで帰って行った。




その絵は、オレンジとピンクが交わる、夕暮れ色の空の中、公園を散歩している、私らしき女性と、それをスケッチしている侑くんらしき男性が描かれていた。



そして私は、絵を2度見した。



その絵は……



暖かくて、優しかった。




端に書かれた雑な文字。



"げんきだして。なかないで"






私はその文字に涙した。



彼は私の涙を……見ていた。



見ていないふりして、私を気にかけてくれている。



なんか嬉しかった。



私にも、小さな幸せが……



ここにあった。

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