第28話
駅から10分ほどでアパートに着き、私は彼を中に入れ、スリッパを出した。
「どうぞ!」
彼がスリッパを履いてすぐ、私は気が付いた。
ずっと掃除してなかった事を……
「ごめん。ちょっと、そこで待ってて」
私は急いで、脱ぎっぱなしの服は洗濯機に突っ込み、畳まれていない洗濯物には、布をかけ、
テーブルに出しっぱなしの、食べた後の食器をシンクに放り込んだ。
「侑くん、お待たせ……私、軽くシャワー浴びてくるから、ジュース出して飲んでて……テレビも見ていいからね」
彼はどこに何があるか、ほぼ知り尽くしている。だから私は安心して、彼を1人にした。
私は脱衣所で、着ていた服や、汗まみれの下着を無造作に脱ぎ捨て、急いでシャワーを浴びた。
髪を洗っていると、ガサゴソと音がしたが、気のせいだと思い、シャワーを浴び続けた。
そして浴室から出ると、私の脱ぎっぱなしの下着や服が消え、洗濯機が回っている。
えっ、、、嘘……
彼は、看病をしてくれた時のように、洗濯をしてくれていた。
あの時は、下着を見られないように隠していたから良かったけど、まさか今日も洗濯してくれるなんて、思ってもみなくて……
下着を見られた事に、ショックを受けた。
私は着替えを済ませると、髪を乾かすのも忘れ、リビングへ行った。
リビングに着くと、テーブルの上には、崩れかけたケーキや、ジュースが準備され、
布で隠していた洗濯物は畳まれ、シンクの中の食器は洗われていた。
彼に目をやると、私が褒めてくれると思い、ニコニコと笑っている。
その笑顔が可愛くて、怒る気力も半減したのだが、
それでも私は心を鬼にして、少し強めに彼に言った。
「侑くん、お片付けしてくれたんだね……でも、下着を洗われるのは、恥ずかしいから、やめてね」
彼は首をかしげながら、寂しそうな顔をした。
「お、……お母さん、ごめんなさい……」
「お母さん???」
彼は私をお母さんと呼んだ。
「ま、ま、間違った。沙也加さんだった……」
彼の顔は赤くなり、両手で顔を隠した。
「私、お母さんに似てるの?」
「わ、分からない……」
「侑くんは、お母さんに会いたい?」
「あ、会いたくない」
「なんで?」
「僕を捨てたから、き、嫌い。それにお母さんだって、ぼ、僕を嫌い」
彼は、お母さんに置いて行かれた事で、お母さんに嫌われていると思っているようだった。
「女の人ってね、妊娠すると、10ヶ月間、お腹の中で子供を育てるの。貧血にならないように、苦手なレバー食べたり、骨が丈夫に育つように、小魚をいっぱい食べたり……逆に、チョコとかジュースは、砂糖がいっぱい入っているから、気軽に食べられないの」
私はショートケーキを指差し、
「このケーキも、妊娠中は我慢して、なかなか食べられないんだよ」
と教えてあげた。
「き、き、嫌いな食べ物は、食べないといけなくて、好きな食べ物は、我慢するの?」
「そうだよ。元気な子供を産むために、お母さんは頑張るの。だから、いらない子なんていないし、お母さんは、侑くんを愛してる」
彼はモンブランを食べ、ジュースを飲み、照れ臭そうにこう言った。
「お、お母さんに会ったら、ケーキ、か、か、買ってあげたい……お、お母さん、喜ぶかなぁ?」
「お母さん、嬉しいと思う。もし会えたら……『産んでくれて、ありがとう』って言ってあげてね」
「うん」
彼は、ほっぺに生クリームをつけながら、嬉しそうに話した。
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