第27話

「ごめんね、ずっと連絡できなくて」


「だ、大丈夫」


「帰る時間、よくわかったね」




そんな話をしながら階段を降りると、改札口いた駅員が、ニヤニヤしながら彼に言った。




「やっと会えたな。良かったな」




私は、その言葉の意味を深く考えず、定期券をその駅員に見せた。




「あなたがこの子の待ち人かい?」



「……え、え、まぁ……」



さっきから、なんでそんな話をするのかよく分からないが、私はとりあえず、会釈をした。



すると駅員は、



「彼は、あなたをずっと待ってたんだよ」と話した。



私が首を傾げると、駅員は再び話し出した。




「駅に来ては、ずっと待合室にいて、あなたを待っていたんだよ。でも彼、笑わないだろう?初めは線路に入るんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよ」




私が彼の顔を見ると、彼は笑っていた。




「……そう、だったんですね。いろいろご迷惑をおかけしました」




私は駅員に深く頭を下げ、彼を待合室の椅子に座らせた。




「ちょっと、何?私に会うために、ずっと駅で待ってたの?2ヶ月間も?」



「ち、違う……1ヶ月間。と、ときどきだよ。アパート行っても会えなくて、だから駅来た」




あっけらかんと話す彼に、私は頭を抱えながら、強く注意した。




「どうして、電話やメッセージで連絡してくれなかったの?こんなことして、事故とかあったらどうするの?……線路に落ちたりしたら……危ないでしょ」




私は、昔の悲しい思い出が蘇り、母親のように彼を叱った。




「ぼ、僕は、メッセージがうまく打てないし電話も苦手……会って話したかった……ご、ごめんなさい、ごめんなさい」



彼はしょんぼりし、泣きそうな顔になった。



すると駅員が近寄り、私にこう言った。



「すみません。さっきは、冗談のつもりで話してしまいましたが、彼はきちんといい子にしていましたよ。椅子を拭いてくれたり、床を掃いてくれたり……あそこに飾りましたが、私に絵もくれました」



指差した方を見ると、額に入れられた、絵が飾ってあった。



「実は私、今日でここの勤務終わりなんです。最後に、彼の幸せそうな姿が見られて、安心しました。絵も家宝にして、転勤先に飾ります。ありがとう」



駅員は帽子を脱いで頭を下げ、駅員室の中へ入って行った。




私は、彼を怒りすぎたと反省し、彼の頭を撫でた。



「な、なんで、よしよししてくれるの?」



「侑くんがいい子だからだよ……怒ったりして、ごめんね」



「じ、じゃあ、ご褒美に、いつか僕と遊んで」



「えっ?さっき侑くんにメッセージ送ったよ。読んでないの?」



「メッセージ?……き、きてないよ」



「あれ?……」




私は、自分のメッセージを見返した。




「あっ、、、」




私は、送信ボタンを押し忘れていて、メッセージは送られていなかった。




「……ごめん、送って無かった。今送るね」




私はメッセージを送り、その文面を声に出して彼に聞かせた。




「じゃあ、ぼ、僕も、送る」




彼はにっこり笑い、携帯電話に向かって、言葉を発した。




「沙也加さんの、お、お家に、行きたいです。明日、遊びたいです」




彼は音声入力を使い、私にメッセージをくれたのだ。




「侑くんは、いつもこうやってやってるの?」



「さっき、え、駅員さんが教えてくれた。こ、これなら、字、間違わない」




彼は、歯にかみながら笑った。




「ねぇ、今から一緒にケーキ食べる?たぶん、ぐちゃぐちゃになってると思うけど……」



「き、今日も、お家に行っていいの?」




彼は、目をキラキラさせ、私の鞄やケーキの箱を手に取り、前を歩き出した。  



純粋で、素直で、優しい彼の後ろ姿を見ていたら、なんか、心がふわふわする。



「駅員さん、羨ましいなぁ……私も絵、欲しいなぁ……侑くんが絵を描いているところも見たいなぁ……」



私は彼の隣に並び、わがままを言った。



「じ、じゃあ、あ、明日、公園行こう」



彼はすんなりOKしてくれ、明日の予定がすぐ決まった。



外で誰かと会うなんて、何年ぶりだろう……



外が怖かった過去を思い出しながらも、隣にいる彼の笑顔がその思い出を消してくれ、

私の心は喜びに包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る