第19話
次の日私は、彼がここを訪れる時間を見計らって、家の中で耳を澄ませて待ち伏せをした。
16時頃、外から人の足音と、ガサガサとビニール袋の音が聞こえ、私はゆっくり玄関のドアを開けた。
そこにはやっぱり、彼がいて、
私に気がつくと、彼は走って逃げた。
「侑くん……待って」
彼を追いかけようとして、私は松葉杖と共に転んでしまった。
「痛ぁ――」
手のひらを見ると、砂利で擦りむけ、血が滲んでいた。
そこへ彼が現れ、私に手を差し出した。
私はこないだのように、彼の肩に掴まり、歩こうとしたのだが、
彼は突然、私を抱き上げ、お姫様抱っこをした。
「えっ?嫌だ、私、重いからダメだよ」
私が止めても、彼は「大丈夫」と言って、私を家の中まで運んだ。
そしてソファーに座らせると、血が滲んだの私の手のひらを、ハンカチで優しく拭いてくれた。
彼は私の手の怪我に気が付き、手のひらが痛まないように、抱き抱えてくれたのだ。
こないだまで、私には助けてくれる家族がいないと嘆いていたけど、
彼は家族のいない私を、いつも助けてくれる。
私にとって彼は、やっぱり正義の味方だ。
でもなぜ逃げたのか、私は彼に問いただした。
「ねぇ、なんで逃げたの?」
彼はその言葉に、目をキョロキョロさせ、挙動不審になった。
そして深呼吸をし、話し始めた。
「え、えーと、あ、あ、あの、な、内緒なのに、は、話した。ご、ご、ごめんなさい……ぼ、ぼ、僕は、う、う裏切り者」
彼はおばあちゃんに、あの話をしてしまい、私が言った『3人だけの秘密』を破ってしまった事を気にしていた。
だから都合が悪くて逃げたのだ。
ギプスを見た時もそうだったが、ちょっとしたことを、深く考えてしまう。
優しさ故に、彼の心は繊細で、壊れやすい。
だから私は、嘘をついた。
「あのね、実は私も、お母さんに話したの」
「沙也加さんも、や、やくそく、破ったの?」
「うん。保険の手続きで、聞きたい事あったから……」
「じ、じゃあ、ぼ、僕のこと、嫌ったりしない?」
「ならないよ」
「ぼ、僕と、ず、ずっと友達でいてくれますか?」
「うん。ずっと友達でいよう」
彼は私の嘘で、元気になった。
そして私たちは握手を交わし、仕事仲間から『友達』になった。
――私には友達が1人もいない。
作ろうとも思わなかった。
でも、彼とは繋がりたいと思えた。
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