第17話
彼は私に傘をさしてくれ、アパートのドアの前まで一緒に来てくれた。
そして、
「ぼ、僕、帰ります」と言った。
でも、彼の髪も上着も雨に濡れてぐちゃぐちゃで、そうさせたのは、私のせいだから、
「服を乾かそう。風邪引くよ」
と言葉をかけ、私は彼を部屋に誘った。
男性を部屋に入れるなんて、まずかったかなぁっと、少し後悔もしたが、
彼は、私のサンダルを脱がせてくれたり、肩を貸してくれ、一生懸命私をサポートしてくれた。
なのに自分の事を、
「僕は悪い子、僕はいらない子」と言いだした。
「どうしてそう思うの?侑くんは良い子だよ」
「ぼ、僕は、さ、沙也加さん、け、怪我させて、は、働けなくした」
「怪我は私の不注意。侑くんのせいじゃ無い」
「ぼ、僕は、お、お母さんも困らせた。ぼ、僕のせいで、お、お母さん、働けなくなった。だから僕は悪い子で、いらない子……生まれなきゃ良かった」
話を聞いていると、彼はお母さんに言われた『悪い子でいらない子』を、ずっと気にしていて、
お母さんがいなくなったのも、自分のせいだと思い込み、自分を責めていた。
私も昔、彼のお母さんと一緒で、怒りを抑えきれず、ひどい言葉を口にした事があった。
今でもその事は、後悔をしていて、でもそれを謝る事はもうできなくて……
私の後悔と、彼の心の傷が交差して、私は苦しくなった。
だから私は、彼の気持ちを楽にしてあげたくて、彼の濡れた髪を、タオルで拭きながら話した。
「侑くんは、悪い子じゃないよ。良い子だよ。いらない子じゃない、必要な子……だから、生まれてきてくれて、良かったと思う」
すると彼は真剣な顔を見せ、「ぼ、僕は良い子?
必要な子なの?」と聞いてきた。
だから私は、こう話した。
「必要だよ。だって私を助けてくれたもん。侑くんは私の正義の味方だよ」と。
すると彼は、満面の笑みで「じ、じゃあ、もっと良い子になるね」と話し、
私にゼリーを食べさせてくれたり、疲れて横になった私に、子守唄を歌ってくれたり、私の看病を始めた。
彼の子守唄は、音程が外れてて、笑ってしまいそうになるけど、でも、なごやかな気分にさせてくれて、私は知らず知らずのうちに寝てしまっていて、目を覚ますと、彼の姿はもうなかった。
身体には毛布がかけられ、テーブルには、コップに入った水と、病院からもらった薬の袋が置かれていた。
気遣いが嬉しかった。
彼は幼い頃、手のかかる子供だったかも知れない。でも今は人を助ける事ができる優しい子に成長している。
彼は悪い子では無い。良い子だ!
この優しさを、彼のお母さんに、伝えられたらなぁって、私は思った。
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