第13話
中に入ると、侑くんは未来ちゃんを追いかけ、腕を掴み、自分の方へ引っ張っていた。
私は慌てて2人の間に入り、侑くんの腕を掴んだのだが、
彼は興奮し、大きな声を上げ、私が掴んだ手を振り払った。
「い、いや――離せ――」
彼の腕は細くて白くて弱々しい感じがしたけど、力が強く、私はよろけた。
その時、高く積まれたコンテナにもたれかかったのだが、コンテナは私の重みで崩れ、私は地面に倒れ込んだ。
ガタン、ドン、ドン、バン
目を開けると、コンテナは崩れ落ち、私の足の上にも乗っかっていた。
「……沙也加さんに何するの?謝りなさいよ」
未来ちゃんは、私の足に落ちたコンテナをよけながら、侑くんを睨んだ。
「私は大丈夫…でも、どうしたの?」
「…突然、侑くんが腕を掴んできて、襲いかかったんです。きっと私に欲情したんです」
未来ちゃんは半泣き状態。
一方彼のほうは、人形のように体が固まってしまい、一点を見つめたまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。
さっき未来ちゃんが、何度も彼の体に触れたから、好意を持ち、突発的に襲ったのだと、私は思った。
私は足を引きずりながら、侑くんの元へ行き、
「女の子をいじめたらダメだよ」と注意をした。
すると、彼は怯えたような目をし、
「だっ、だって、み、未来さん、ぶどう、ぬ、ぬ…盗んだ」と話した。
私は意味が分からず、未来ちゃんの方を見ると、
未来ちゃんは顔を赤くして怒り、こう言い放った。
「嘘つかないで…私に欲情したんでしょ?それに、突然、沙也加さんを突き飛ばしたりして、危険人物ですよ。沙也加さん、警察に通報しましょう」
未来ちゃんの発言の後、彼の瞳からは、涙がボロボロと流れ落ち、鼻水も垂れ、ぐちゃぐちゃな顔になった。
「侑くんは、嘘、つかない子だよね?本当の事話して」
彼は、潤んだ目で私をじっと見つめ、私に抱きついた。
そして鼻水をすすりながら、苦しそうな声で、訴えかけた。
「こ、怖い。た、助けて……」と。
私は胸が苦しくなり、思わず我が子をあやすように、彼の体をさすっていた。
そして、彼から伝わる、悲しみの振動は、嘘ではないと感じた。
「未来ちゃん、ここの部屋、防犯カメラあるんだ。警察に映像を調べてもらう?……どっちが嘘つきか分るから」
私が防犯カメラを指差すと、未来ちゃんは動揺し始め、リュックからゴソゴソと何かを出した。
それは、布に包まれた、シャインマスカットだった。
「これ、床に落としてしまったから、後で洗おうと思って……彼にも説明したんだけど、彼、自閉症だから、意味も通じなくて」
人を見下したような言い訳が、延々と続き、私の何かが切れた。
「その嘘で、正直に生きている人間が、犯人にされて、苦しんで、明日が怖くなって……命を経つ事だってあるんだよ……その嘘は、殺人と一緒だよ……」
未来ちゃんは目を見開き、泣き出した。
普段怒らない私が怒り、驚いたのだろう。
私も、熱くなってしまった自分に驚き、筋違いな発言をした事を後悔した。
「未来ちゃん、怒ったりしてごめん。そのマスカット、洗って戻そうね。そうすれば、何もなかった事になるから。もう、やったら絶対ダメだよ」
未来ちゃんは、マスカットを洗いに行き、元の場所に戻した。
そして私は、
「今日の事は、3人だけの秘密だよ」と口止めをした。
そうすれば、これからもずっと、みんなで仲良く、仕事を続けられると思ったからだ。
私なりの、優しさのつもりだった。
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