第6話
買えなかったお客様に、玉ねぎの引換券を渡し終えると、彼の姿は消えていた。
私は彼に、きちんとお礼を言いたくて、事務所や、休憩室、ゴミ捨て場を探した。
しかし彼はいなかった。
私は諦め、売り場に戻ろうとすると、彼が奥から歩いて来るのが見えた。
嬉しさのあまり、笑顔で手を振るも、彼は私を見た途端、歩く方向を変え、
まるで逃げるかのように小走りになった。
「茶々丸のお兄さん、ちょっと待って……」
私の声に、彼はピタリと立ち止まり、こっちを向いてくれたが、目を逸らし、怯えるように下を向いた。
「さっきは、玉ねぎ並べてくれてありがとう。ごみも捨てくれたんだね。これ、お礼」
私はポケットに入っていた、ナッツ入りのチョコレートを彼に渡した。
すると彼は、チョコレートを手に取り、匂いを嗅ぎ、金色の包み紙を剥がして、その場で食べた。
そして、むせて、顔を赤くした。
「ゴホ、ゴホ、ゴホ」
「えっ、、、大丈夫…?」
私は慌てて背中をさすった。
「もしかして、アレルギー?」
彼は赤い顔をしながら、首を横に振った。
「ねぇ、もし、具合悪くなったら連絡して……」
私は焦っていた。
アナフィラキシーになったらヤバイと思った。
テンパりながらメモ帳を出し、自分の名前と電話番号。そして住所まで書いて、彼に渡した。
「何かあったら、タクシー代とか、病院代とか、私払うから」
彼は一言も話さず、目も合わさず、私の元を去って行った。
私はこの出来事を、奥さんに報告しようと思い、事務所に行ったのだが、
奥さんは不在で、相談することが出来ず、
私は不安を抱えたまま、眠れぬ夜を過ごした。
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