第5話

やっとレジから抜けられ、売り場を見に行くと、玉ねぎの空箱が、積み重なって置いてあった。



きっと作業所の青年が、品出しをしてくれたのだと思い、お礼を言いたくて彼を探すと、彼がお客様に、怒られているのが見えた。



「お客様、どうなされましたか?」



私がお客様に声をかけると、お客様はこう話した。




「この人、教育なってないよ。質問したら、逃げようとしたんだから」




お客様は怒っていて、青年は今にも泣きそうな顔をし、私に言った。



「ご、ご、ごめん……な、なさい。じ、事務所、行こうとした」




彼は逃げたのではなく、分からない事を、誰かに聞きに行こうとしてくれたのだと分かった。



「お客様、彼は逃げたのでは無く、確認しに行こうとしたみたいです」



私は、彼の誤解が解けると思って話した。


しかしそのお客様は、納得するどころか、今度は彼の話し方をバカにした。




「この子、どもりが強くて話し方が変ね?障害者?だから仕事が遅いのね」




私はその言葉に腹が立った。強く言い返そうとも思った。



でも私は販売員である限り、揉めてごとは起こせない。



だから怒りを殺し、笑顔で接客を続けた。




「お客様、ところで、用件はなんでしょうか?」



「玉ねぎ買えなかったから、引換券が欲しかったのよ」




そのお客様は嘘をついた。



一度レジに並び、すでに玉ねぎを買っているのに、『買えなかった』と嘘をつき、引き換え券を欲しがった。


別にそれを咎めるつもりは無かった。


でも、彼に対する態度が許せなくて、私は笑顔で嫌味を言ってやった。



「お客様…玉ねぎ買いましたよね?玉ねぎを買えたのは、彼が品出ししたからですよ。彼に感謝しないと」



「感謝?それが仕事でしょ」



「彼はここの従業員ではありません。配達に来ただけなのに、お手伝いしてくれたんです」



「従業員か、そうで無いかなんて、知ったこっちゃない。もう、いらないわ、帰ります」



お客様は悪びれること無く、最後まで文句を口にした。


すると、その光景を見ていた常連客が、彼に声をかけ始めた。



「兄ちゃん、ありがとう。玉ねぎ、どこも品切れで買えて良かった…今日は、カレーを作るよ」



「兄ちゃん、従業員じゃないのに、玉ねぎ並べてくれてありがとな!」




クレームをつけたそのお客様は、都合悪そうに店を出ていったのだが、



片方の手が震え出し、一生懸命震えを押さえている様子が、私の目に映った。

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